近年、生成AIの技術が飛躍的に進歩し、さまざまな分野での活用が期待されています。しかし、生成AIを効果的に学習させるには、いくつかの手法があり、それぞれメリット・デメリットがあります。本ブログでは、生成AIの学習方法について、プロンプトエンジニアリング、RAG、ファインチューニングなど、さまざまな手法を紹介します。生成AIを自社のビジネスに活用する際の参考にしていただければ幸いです。
1. 生成AIを学習させるための3つの手法
生成AIを学習させるためには、主に以下の3つの手法があります。それぞれの手法について詳しく説明していきましょう。
1.1 教師あり学習
教師あり学習とは、人間が教師となってAIに「質問」と「正解」を与えて学習させる手法です。この手法では、入力データとそれに対応する正解ラベルを用いて学習を行います。たとえば、果物の種類を判別するAIの場合、学習用の画像データに果物の正解ラベルを示す必要があります。大量のデータを使用し、AIに未知の画像に対しても正確な判別を行わせることができます。
1.2 教師なし学習
教師なし学習は、AIに「正解」を与えずに学習させる手法です。この手法では、データ自体の特徴や関係性を見つけることに焦点を当てます。クラスタリングは教師なし学習の一つの手法であり、似た特徴を持つデータをグループ化することで、データの隠れた構造を発見します。教師なし学習では、正解ラベルがないために、主観的な要素が結果の解釈や評価に影響を与える場合がありますが、大量のデータから潜在的なパターンを見つけることができます。
1.3 強化学習
強化学習は、AIが行った判断に対してスコアを与えることで学習させる手法です。AIは高いスコアを目指して試行を繰り返し、より適切な判断を学習します。強化学習はデータを必要とせず、データがない状態からでも学習を開始できるという特徴を持っています。強化学習の応用例としては、ゲームAIやロボット開発が挙げられます。
以上が生成AIを学習させるための3つの手法です。それぞれの手法は特徴や利点・欠点を持っており、自社の目的やデータの性質に応じて適切な手法を選択することが重要です。
2. プロンプトエンジニアリングで手軽に始める
プロンプトエンジニアリングは、非エンジニアの方でも簡単に始めることができる手法です。生成AIから求める回答を得るための正確な指示を出す方法です。
プロンプトエンジニアリングのメリット
プロンプトエンジニアリングの利点は以下の通りです。
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非エンジニアでも実行可能: プロンプトエンジニアリングは、エンジニアリングの知識やスキルを必要としません。そのため、非エンジニアの方でも比較的容易にデータを学習させることができます。
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コストが低い: プロンプトエンジニアリングでは、生成AIへの入力内容を変更するだけでデータの学習を行えます。そのため、追加の費用はかかりません。
プロンプトエンジニアリングのデメリット
一方で、プロンプトエンジニアリングには以下のようなデメリットもあります。
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プロンプトエンジニアリングスキルが必要: データを活用して生成AIから適切な回答を得るには、質問や指示の設計や記述のフォーマットなどのスキルが必要です。
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学習データ量の制限: プロンプトエンジニアリングでは、利用できるデータ量に制限があります。そのため、多量のデータを学習させる必要がある場合や顧客との対話や社内データを活用する場合には向いていません。
プロンプトエンジニアリングの具体的な手法
プロンプトエンジニアリングを効果的に実践するために、以下の手法があります。
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質問や指示の設計: 生成AIに入力する質問や指示を工夫し、適切な回答を引き出すようにします。具体的には、データをテキストで入力したり、CSVファイル、PDFファイル、URLなどを添付することができます。
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ファインチューニングの実施: プロンプトエンジニアリングで設計した質問や指示を基に、生成AIのモデルを自社のニーズに合わせて特化させることができます。これにより、より正確で適切な回答を得ることができます。
以上がプロンプトエンジニアリングの手法です。非エンジニアの方でも気軽に始めることができるため、生成AIを活用した業務効率化やイノベーションを実現するためには、ぜひプロンプトエンジニアリングを取り入れてみてください。
3. RAGで大量のデータから学習する
RAG(Retrieval-Augmented Generation)は、質問に回答するAIのデータベースだけでなく、自社の大量なデータベースから情報を検索して回答する手法です。
RAGの利点
RAGを活用することで、以下のような利点があります。
膨大なデータ量の学習が可能
RAGは、プロンプトエンジニアリングとは異なり、膨大なデータ量を学習させることができます。これにより、自社データを最大限に活用した業務効率化やサービスの創出が可能となります。
最新データに基づく回答
RAGでは、生成AIと自社のデータベースが連携しており、最新のデータをもとに回答を提供できます。これにより、正確で最新の情報をユーザーに提供することができます。
RAGの課題
一方で、RAGを導入する際には以下の課題も考慮する必要があります。
導入のハードルが高い
RAGを導入するには、高度なエンジニアリング知識やスキルを持った開発者が必要です。そのため、導入には一定のリソースやコストがかかる場合があります。
回答時間が長い
RAGでは、自社の大量なデータを検索するため、回答までに時間がかかることがあります。特にデータベースのアクセスや検索に時間がかかる場合は、回答までの時間が長くなる可能性があります。
以上がRAGを活用したデータの学習方法です。RAGは大量のデータから情報を検索し回答する能力を持っています。ただし、導入には高度なエンジニアリング知識や回答時間の増加といった課題も考慮する必要があります。自社のニーズや目的に合わせて、最適な学習方法を選択することが重要です。
4. ファインチューニングで最適化
ファインチューニングは、AIモデル自体を自社の業界や特定の業務に特化したものに再構築するための学習方法です。以下にファインチューニングの手法とその適応例を紹介します。
ファインチューニング手法
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事前学習済みモデルの選択: 大規模なデータセットで予め学習されたモデルを選択します。これにより、一般的な知識や特徴をモデルが学習済みの状態からスタートすることができます。
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ファインチューニングの層の選択: モデルの一部の層のみを再学習させることで、特定の業界や業務に特化した学習を行います。通常は、モデルの中間層や最終層を対象とします。
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学習済みモデルへのデータの適用: 自社のデータを学習済みモデルに入力し、そのデータに応じた特徴を学習させます。これにより、一般的なモデルの予測能力を自社の業務やデータに適用することができます。
ファインチューニングの適応例
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自然言語処理タスク: レビュー分類や感情分析などの自然言語処理タスクにおいて、一般的な文章から自社の業界や商品に特化した文章の解析を行います。
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画像認識タスク: 商品の画像や顧客の顔写真など、特定の画像データに対する認識能力を高めるために、特定の業界や業務に関連する画像データを利用します。
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音声処理タスク: 自社の製品やサービスに関する音声データを学習させることで、特定の音声に対する認識や分析能力を高めることができます。
ファインチューニングは、自社の業界や業務に特化したAIモデルを構築するための重要な手法です。適応例に示したように、さまざまなタスクにおいて活用することができます。また、ファインチューニングと他の学習手法(例:RAG)を組み合わせることで、さらに高いパフォーマンスを発揮することができます。
5. 自社データを効果的に学習させる6つのポイント
自社データを生成AIに効果的に学習させるためには、以下の6つのポイントに注意する必要があります。
①データ範囲の適切な設定
学習させるデータの範囲を適切に設定することが重要です。過剰なデータを学習させると情報処理に時間がかかり、回答スピードが遅くなる可能性があります。また、情報漏洩のリスクも高まることがあります。生成AIに学習させるべきデータと不要なデータを区別し、適切な範囲に絞ることが必要です。
②最適なプラン選定
生成AIサービスには複数のプランがあります。無料プラン、有料プラン、企業向けプランなどがありますが、それぞれセキュリティや機能の面で異なる特徴を持っています。自社の目的や学習させるデータの性質に合わせて、適切なプランを選択することが重要です。例えば、個人情報や機密情報を学習させる場合には、セキュリティが強化された有料の企業向けプランを選ぶことが適切です。
③リスクを最小化するデータマネジメント
生成AIは学習データに基づいて動作するため、データマネジメントの質が生成結果の品質に直結します。データの正確性と偏りのなさ、機密性の保持はリスクを最小化する上で非常に重要です。適切なデータマネジメントを実施することで、データの質を確保し、情報漏洩や不正確な情報生成のリスクを低減することができます。
④従業員向けの利用ルール・マニュアルの策定
生成AIを効果的に利用し、リスクを最小化するためには、従業員向けの明確な利用ルールやマニュアルを策定することが重要です。内部でのAIの使用目的や使用範囲、倫理ガイドライン、データ取り扱いのルール・マニュアルを策定することが必要です。
⑤従業員の生成AI活用リテラシーの向上
生成AIを最大限に活用し、リスクを管理するためには、従業員のAIに関する理解とスキルの向上が必要です。従業員が生成AIの基本的な知識と適切な使用方法、関連するリスクを理解し、責任ある方法で使用できる環境を構築するために、研修プログラムや実践的なトレーニングを通じて従業員のAIリテラシーを高める必要があります。
⑥最新動向を踏まえた生成AI活用方法の定期的な見直し
生成AIの技術とサービスは日々進化しており、新しい活用方法や利用プロセスが現れ、それに伴って新たなリスクも生じる可能性があります。そのため、常に国内外の生成AIに関する最新の動向を把握し、企業の生成AI活用方法を定期的に見直し、更新する必要があります。
これらのポイントを押さえることで、自社データを効果的に生成AIに学習させることができます。生成AIの活用は効率化やサービス提供のパーソナライズ化など、さまざまな可能性を秘めています。ぜひこれらのポイントを実践し、ビジネスにおける生成AIの活用を検討してみてください。
まとめ
生成AIの活用は、データの学習方法によって大きな可能性と課題が存在することがわかりました。プロンプトエンジニアリングは比較的簡単に始められ、コストも低いという利点がありますが、データ量が限られるという課題もあります。一方、RAGは大量のデータを学習できる一方で、導入が難しく回答時間が長くなる可能性があります。さらに、ファインチューニングを活用することで、自社の業界や業務に特化したAIモデルを構築することができます。これらの学習手法を適切に組み合わせ、自社データの特性に合わせて活用することが重要です。また、データマネジメントやリスク管理、従業員の教育など、生成AIを効果的かつ安全に活用するための取り組みも不可欠です。生成AIの技術は日々進化しており、最新動向を踏まえながら、自社のビジネスに合った活用方法を継続的に検討していくことが重要です。